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いきなりですが、サッカーの指導や考え方について、私の言いたいことが詰まっている6年前の記事です。
先週、体調を崩し、昔の書類整理をしている時に発見しました。
6年前はプリントアウトして保護者の皆様に配布しました。
是非ご覧下さい。
■特例が認められ、バルセロナの一員に
久保君のバルセロナ入団の物語は、日本で行われた「FCバルセロナキャンプ」から始まった(写真は11年のキャンプのもの)【イースリー】
日本人の少年が、FCバルセロナのカンテラ(下部組織)に加入――。まるで漫画のような話だが、現実の出来事だ。おとぎばなしの主人公の名前は、久保建英(くぼ・たけふさ)。日本人で初となる、FCバルセロナの下部組織に加入を果たした10歳の少年である。
事の始まりは、2009年に日本で行われた「FCバルセロナキャンプ」だった。これは日本のAmazing Sports Lab Japan社が企画したもので、現地バルセロナスクールコーチの指導を、日本で受けられるというものだ。久保君は8歳の時にこのキャンプに参加した。そこですぐに、「すごい子どもがいるぞ」とコーチの間で話題になり、キャンプで最も優秀な選手に送られるMVPを獲得。その特典として、バルセロナのスクール選抜の一員に選ばれ、ベルギーで開催された国際大会に参加する。そこで、7試合で6ゴールを挙げる活躍を見せ、チームは3位ながら大会MVPに選ばれた。
その後、バルセロナのコーチの強い推薦で、下部組織の入団テストを受けることに。バルセロナには「13歳以下の選手は、カタルーニャ州出身でなければ契約しない」という決まりがあるが、特例として認められ、晴れてバルセロナの一員となった。
バルサキャンプを企画し、久保君の入団テストに同行したAmazing Sports Lab Japan代表の浜田満氏によると、「バルセロナの下部組織の基準として、最高レベルの選手を10とすると、カタルーニャ出身の選手はレベル7、外国人であればレベル9以上が必要になる」という。つまり久保君は、この年代では最高レベルの選手に近い評価を得たことになる。
■非凡な“サッカーインテリジェンス”
バルセロナの下部組織で長きにわたって指導をし、シャビを育てた名伯楽として知られるジョアン・ビラ氏は、久保君のプレーを見て「将来、スペインの1部リーグでプレーできるタレントを持った選手だ」と太鼓判を押す。
それでは、久保君のどこが優れているのか。日本で“天才少年”というと、イメージしやすいのが、ボールを持ったら、圧倒的な個人技で相手をかわしてゴールを決める選手だ。しかし、久保君はそのようなタイプではない。もちろん、ドリブルやボールコントロール、左足の正確なシュートも極めて高いレベルに達しているが、彼の非凡さは常に周りの状況を確認し、プレーの中でベストの選択ができる“インテリジェンス”の部分にある。
彼がピッチに立つと、チャンスの質が変わる。“人とスペース”の概念を理解し、状況に合ったプレーを選択できるため、決定的なチャンスが多く生まれるのだ。見た目は10歳のちびっ子だが、頭の中は大人顔負けか、それ以上のサッカーインテリジェンスを持っている。そして、それこそが、バルセロナが評価した部分でもある。
バルサキャンプで来日したコーチの責任者、マルク・サバテ氏は言う。「われわれが考えるいい選手とは、テクニックに加えて、“違い”を生み出せる選手です。違いとは、判断のスピードやポジショニングの部分であり、ピッチの中でリーダーシップをとれて、チームを円滑にできる選手を求めています」。その代表的な例がシャビであり、イニエスタであると言える。
では、なぜ久保君は10歳にして、バルセロナのコーチが絶賛する“サッカーインテリジェンス”を身につけることができたのだろうか。その要因はいくつかある。1つは、小さなころからバルセロナの試合映像を繰り返し見ていたことだ。熱心な父親とともに、シャビ、イニエスタ、メッシのプレーを重点的に見て、自分のプレーと比較していたという。
浜田氏は言う。
「スペインでバルセロナの練習に参加した際、建英はすでに何年も前からそこでプレーしていたかのように、普通にプレーすることができていました。それって、驚くべきことなのです。周りにいるのは、毎日バルサメソッドの指導を受けている選手ばかりなのですから。アンリもマスチェラーノも、加入当初はバルサに適応するのに時間がかかり、試合であまり活躍することができませんでした。それを10歳の少年がすぐにできるとは正直、驚きましたね」
久保君はバルサの映像を繰り返し見ることのほかに、バルサキャンプやシャビを育てたジョアン・ビラ氏のクリニックに参加し、積極的に「バルサのサッカー」を吸収していった。だからこそ、違和感なく溶けこむことができたのだ。
■修正能力の高さと旺盛な好奇心、コミュニュケーション能力
もともと、久保君の向上心や吸収力は目を見張るものがあった。バルセロナで練習に参加した時のことだ。FWで起用されたのだが、それまでトップ下でプレーしていたクセが抜けず、相手がボールを持っているときに、守備をしようと左右に動き過ぎていた。その結果、味方がボールを奪ったときにゴールから遠い場所にいるため、1ゴールも決めることができなかった。それを指摘されると、ノートを手に戻ってきて「動き方を教えてください」と、ピッチの絵を描き始めたという。
「建英は修正能力が高いし、何より好奇心が旺盛です。分からないことがあったら聞きに来るし、自分の考えを持っています。これは、お父さんの教育方針によるところが大きいと思います。スペイン語について質問に来たり、一緒にボールを蹴ってくださいと来ることもあります。そこで、『仕事があるから、ちょっと待ってて』と言うと、『わかりました』と言って、弟とボールを蹴っている。だから、弟もすぐにうまくなると思います(笑)」(浜田氏)
考える力、学ぼうとする意識、そして、大人相手にも臆することなくコミュニュケーションをとろうとする姿勢。同年代の子と比べて、久保君はその部分が飛び抜けている。川崎フロンターレU12の一員として、大会に参加した時のことだ(所属はU10ながら、11年5月からはU12の練習に参加していた)。彼がベンチで試合を見ながら、「今、裏のスペースにパスを出せましたよね」といった具合に、監督と意見交換する姿を何度も見かけた。大人と対等に話をすることができ、サッカーについて考える力、探究心がずば抜けている印象を受けた。ただ、ボールを蹴ることだけが上手な選手ではないのだ、と。
彼は一体、どのような選手になるのだろうか。久保君の才能を見初めたオスカル・エルナンデスコーチはこう表現した。「タケフサは左利きのイニエスタだ」。浜田氏はプレーを見ていて、「中盤ではイニエスタのようなプレーができ、ゴール前ではメッシになれる選手だ」と感じている。
まだ10歳の少年であり、将来のことは誰にも分からない。スペインの地では、苛烈な競争が待っている。果たして、彼はトップチームの一員として将来、カンプ・ノウのピッチに立つことができるのだろうか。それが明らかになるのは、早くても6~8年ほど後になるだろう。ちなみに8年後、リオネル・メッシは32歳、久保建英は18歳である。
■CL決勝の舞台にカンテラ出身が7人
元バルサコーチのジョアン・ビラはカンテラでシャビ、プジョルらを指導し、一流選手に育て上げた実績を誇る【イースリー】
現在、世界最高のチームはどこか? そう問われたら、多くの人が「バルセロナ」と答えるだろう。メッシ、シャビ、イニエスタを中心に高い技術を持つ選手をそろえ、「ボールを失わないこと」を哲学としたスタイルは、世界中の人々を魅了している。カンテラ(下部組織)出身のグアルディオラが監督就任以降、チャンピオンズリーグ(CL)優勝2回、リーガ・エスパニョーラ3連覇と、結果と内容を両立させ、娯楽性を兼ね備えた現在のバルセロナは、歴史に残るチームとして欧州フットボールシーンの頂点に君臨している。
バルセロナを語る上で外すことができないのが、カンテラの存在だ。今年5月のCL決勝の舞台に、カンテラ出身の選手は7人いた。バルセロナが指向するサッカーを身体に染み込ませた選手たちが、下部組織出身の監督のもと、同じイメージを共有しながら世界最高レベルの個の能力を発揮する。それこそが、バルセロナの強さの秘訣(ひけつ)にほかならない。
カンテラ出身者であり、ゲームキャプテンとしてバルセロナの中心を担うのがシャビ・エルナンデスだ。そのシャビをカンテラ時代に指導したジョアン・ビラ氏が日本のU-12年代を対象としたクリニックを行った。13歳のシャビを「グアルディオラの後継者になれる」と見初めた人物が語る「頭の中を鍛えるトレーニングの重要性」とは――。シャビを育てた名伯楽(めいはくらく)が語る、日本の育成年代に向けた提言。本稿はその第2弾である。
■30歳のプジョルがさらに向上するために必要だったこと
――前回のインタビューで、あなたはサッカーをする上で大切な要素は3つ(「ペルセプシオン(状況把握)」「デシジョン(判断)」「エヘクシオン(実行)」)だと言っていました。そして日本に限らず、世界中の多くの国が「実行」の練習が多く、実行をするために必要な「状況把握」「判断」のトレーニングがおろそかになっていると
その通りです。シャビやイニエスタはテクニックに加え、「状況把握」「判断」に優れた選手です。だからこそ、世界トップレベルの選手になったと言えるのではないでしょうか。プジョルにしても同じです。3年前、彼は30歳でした。すでに世界的な名声を手にしており、バルサのキャプテンでもありました。普通の選手であれば、その地位に満足して「オレはなんでも知っているぞ、これ以上学ぶものはない」と思うかもしれません。しかし、彼は違いました。もっとうまくなりたい、もっとサッカー選手として向上したいという強い気持ちを持っていました。そこで、わたしはプジョルに「状況把握」と「判断」こそが、もっと改善できる部分であることを教えました。
プジョルが欲したのは、自分のプレーを分析することです。そこで、わたしは彼のプレーを分析しました。すると、学ぶことが42項目ありました。そのうちの7つはボールと一緒にやらなければいけないこと。つまり「実行」の部分です。それ以外の35項目は、ボールがないところの動き。すなわち「状況把握」「判断」の部分です。いつ前に行くべきか、いつ後ろに下がるべきか。どこを見て、どのような判断をするのか。その具体的な内容は、スペインの監督たちにも教えました。
■「ボールを失わない」ことと「ポジションを失わない」こと
――プジョルのエピソードにも通じる部分はあると思いますが、トレーニングをする上で大切なことは何だと考えていますか?
戦術的なトレーニングをしっかり行うことです。バルサのように「ボールを失わない」という哲学があるのなら、それに基づいたトレーニングをします。もう1つ大切なのは、選手たちがピッチの中で「ポジションを失わない」ことです。走ることがすべてではありません。やみくもに走ればいいというわけでもありません。それぞれの選手が状況に応じて、適した位置にいること。それが良い攻撃をすることにつながり、裏を返せば良いディフェンスをすることになります。
守るときは散らばっている選手がひとつの塊(かたまり)のようになる必要があります。反対に、攻撃をするときは広がります。これがポイントです。ただし、それを子供たちに伝えるのはとても難しいことです。なぜなら、子供たちは前へ、前へ進もうとするからです。そこで重要になるのが、これまで話してきた、テクニックと戦術を併せた考え方です。もちろん、基礎的な技術の習得など「実行」のトレーニングも大切ですが、それと同じぐらい「状況把握」「判断」を鍛えるトレーニングも大切なのです。
■子供たちに教えるべきことは「勝つための方法」ではない
判断の重要性を訴えるビラは、子供たちに正しくプレーする方法を教えることを第一としている【イースリー】
――「状況把握」「判断」を鍛えるトレーニングの大切さについて、もう少し具体的にお願いします
わたしは1つの要素、例えばテクニックだけを教えることはありません。頭のいい選手を育てるためです。わたしが子供たちに伝えることは、いい判断をすること。そして良い実行(プレー)をすること。それができれば、楽しくサッカーをすることができるようになります。
サッカーを学び、いい判断の下にプレーができるようになれば、試合にも勝てるようになるでしょう。それが「サッカーをうまくプレーする」ということなのです。グラウンドで良いプレーができるようになれば、見に来た人たちもサッカーをより好きになってくれます。ちょうど、今のバルサのサッカーがそのような状況にあると思います。世界中の人々が彼らのプレーを見たいと思っています。映画を見るときも、楽しい作品を見たいと思う人が大半でしょう。サッカーも同じです。
――そのために、気をつけて指導していることはなんですか?
子供たちに教えるべきことは「勝つための方法」ではありません。大切なのは、正しくプレーする方法を教えることです。それが結果として、観客が楽しんでサッカーを見てくれることにつながるのだと思います。
スペインでも、子供たちは勝つことだけに関心があり、サッカーを学ぶこと、いいプレーをすることに、意識が向いていない時期がありました。指導者も体が大きい、足が速いなど、うまさよりも「強くて速い」選手を探していました。しかし、それがようやく変わってきました。14歳ぐらいまでのカテゴリーは、選手としての幅を広げることを目指しています。そこでは、サッカーを理解している選手を育てようとしているのです。この年代は、効率よく勝つ方法を身につけるよりも、サッカーを理解し、学習することが大切です。そして、14歳以降は、競争で選ばれた選手がプロになります。
■頭の中を鍛えることで選手の判断の質は変わってくる
――トレーニングをするときは、どのような部分をチェックしているのですか?
例えば、選手がプレーの判断を下さなくてはいけない場面があるとします。解決が難しい局面だったとして、選手がその状況に飛び込んでどうするかを見ています。いい選手は解決方法を探します。もし、そこでできないと感じたら、プレーを変えます。判断を変えて、その場所にとどまり続けようとはしません。逆に悪い選手は、解決できないのに、その場所に居続けようとします。頭の回転が速い選手は、状況に応じて次々にプレーを変えていく。シャビはまさにそのような選手です。パスコースがなければ、ターンをしてドリブルをします。それは状況に応じて、次々に判断を変えているからです。
ただし、これは専門的なことを知っている監督でないと、見えづらい部分だと思います。多くのチームの監督は、強くて速い、簡単に結果を出すことのできる選手を探していて、頭の回転が速いかどうかまでは見ていません。わたしが提唱するのは、頭の中を鍛えることです。練習を重ねるごとに、選手の判断の質は変わってきます。わたしは選手たちがしっかりとサッカーを理解して、プレーできるようになることを望んでいます。ただ、ボールを蹴ることだけを教えるのではありません。頭の中を鍛える練習こそが大切なのです。
■子供たちが楽しくサッカーを学ぶことが将来的な結果につながる
筆者はジョアン・ビラが5日間にわたって行ったトレーニング、2回の座学と4時間のロングインタビューを経て、彼の指導についての考え、哲学に触れることができた。初日のトレーニングでは、「自分とボールと相手」に対してのみ意識を向ける子供たちが多かったが、トレーニングの回数を重ねるごとに、自分とボールと相手から、「スペースを使う」「仲間がプレーしやすいように動く」といった、サッカーに対する新たな視点を獲得したように見えた。
もっとも、短期間のトレーニングでそれらが劇的に向上し、サッカー選手としてレベルアップするわけではない。しかし「実行」のトレーニング以外に、「状況把握」や「判断」に働き掛けることで、ほぼ初対面であり、年齢も9~11歳とバラツキがある子供たちが、少人数のグループとして機能する場面を何度も目にした。また「状況把握」や「判断」の質を高めることで、身体能力に頼らなくても相手より優位にプレーできる場面もあった。筆者は日本の育成年代のトレーニング現場を中心に取材しているが、「実行」に多くの時間を割き、「状況把握」や「判断」に、それほど意識を傾けていない場面を目にすることがある。その意味でも、ジョアン・ビラ氏の提言は価値あるものだと感じた。
なおインタビューの最後に、彼はこのように述べている。
「スペインは世界的にレベルの高いチームです。それは、ジュニア年代の指導者を手助けしてきたことに要因があると思っています。子供たちの指導を始めて、すぐに結果が出るわけではありません。ですが、少しずつ段階を移行して、子供たちが楽しくサッカーを学ぶことが、将来的な結果につながることを意識してほしいと思います。日本はアジアチャンピオンです。大いなる可能性があると思っています」